どろろの原型は、丹下左膳のチョビ安
ぼくは、原作ものはほとんど手がけません。
(この場合の原作ものとは、シナリオか筋書きが漫画用に用意されたもののことです。
つまり、梶原さんとか、小池さんといった原作者が書きおろした物語のことをいいます)
しかし、小説や戯曲がすでにあって、それを換骨奪胎(骨組みを変えて別のものにしてしまうこと)して
漫画にすることは、昭和23年に【森の四剣士】ではじめ、
その2.3年間でさえ【ファウスト】【罪と罰】などでやっています。
(中略)
【丹下左膳】をやってみないか、と「おもしろブック」編集部の長野規さんにいわれたとき、
あぜんとして、耳を疑いました。
いくらなんでも、このぼくにあのチャンバラ劇を…頭の中に映画の左膳役の大河内伝次郎の顔や、
鼓ノ与吉とチョビ安の追っ掛けあいや、
「ヘラヘラ、ヘッタラ、ヘラヘラ。」という声なんかが次々に浮かびました。
子供のころ大阪では、丹下左膳ごっこが流行り、丹下左膳のどぎついメンコが売られていました。
丹下左膳といえば、フランケンシュタインの怪物に比するべき怪人の印象でした。
(げんに原作でも化け物あつかいされています)。
こんなものをかいたら、手塚治虫の作品イメージがすっかり変わってしまうのでは……と気になりました。