エゾシカの葬りかた





宵闇。星の瞬きが森に遮られて地表まで届かない。


真っ暗がりの中で、獣が立てる僅かな空気の遮りを聴き取って、


猟師は利き腕の利き指を、その獣に向けて指差すが如く、ゆっくりと、音も空気も震動させずに動かす。


鉄の気配を感じたのか、獣の瞳孔が開き、前脚と後ろ脚をほぼ同時に使って地面を蹴る。


それとほぼ同時に、猟師の指先から閃光が放たれ、獣の角と、耳と、そして眉間の骨を粉砕する。


獣の、甘える様な断末魔の高い悲鳴が、森中に轟き、続いて銃声が響く。


辺りに潜んでいた、今この瞬間だけは死の可能性を回避した獣たちが、一斉に逃げ出していく。


仕留められた獣は白眼と黒眼をこれ以上は無理とばかりに大きく見開き、絶命している。


猟師にとって、既に獣は、狩りの対象では無く、生き物ですら無い。


腹を切り裂いてその内臓の温かさで暖を取る、一種の暖房器具でしか無いのだ。


やがて獣の首は、その立派ながらも弾丸に因って一部が削られた角をつけ、


酔狂な人間の応接間に飾られるのだろう。


今夜は、そんな獣に想いを馳せて、一杯のスコッチを飲ろうではないか。


この一杯には、はかり知れない物語が織り込まれている。




こんなCMやらせてくんねえかなあ。