吾妻ひでお「わんぱたんの、でぃっく」






その昔、角川書店が矢鱈、野生だの冒険だのと叫んでいた時代がありまして、


【月刊小説王】という名のメヒロイック・マガジンモと銘打った月刊文芸誌が出版されていました。


執筆陣は、角川映画にもなった【少年ケニヤ】の原作者・山川惣治(【十三妹】)、


後にベストセラーとなり、映画化もされた荒俣宏の【帝都物語】、


ひさうちみちおの【義経の赤い春】、


今も単行本は中々入手し難い、上村一夫の【菊坂ホテル】などでした。


丸尾末広が読みきり短編として、同誌に発表した【電気蟻】は、


掲載された時は、「原作・P・K・ ディック」の表記があったのですが、


単行本【新・ナショナルキッド】での【電気蟻】は、


【贋作・電気蟻】というタイトルになっており、ディックのクレジットは無し??


物語は、ある日自分が人間では無いと気付いた主人公という


いつものディック節溢れるものですが、


丸尾末広は本作の冒頭で、主人公が耳鳴りに悩まされる描写を、


「ブウウゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ン………


 耳鳴りに悩まされている。


 耳の中で昆虫の羽音のようなものが続いている。


 その事をマリアに話すと」



「それは耳鳴りじゃないわ。


 耳鳴りはブウゥーンじゃなくて


 キーンよ キーン」


…………としています。