七つの世界の七不思議



学研ジュニアチャンピオンコースの一冊【七つの世界の七不思議】。


著書は、その道(世界の不思議界)の重鎮・庄司浅水氏。


第1章「遺跡の七不思議」、第2章「海洋の七不思議」、第3章「宇宙の七不思議」、


第4章「動物の七不思議」、第5章「自然現象の七不思議」、第6章「人間の七不思議」、


そして第7章「事件の七不思議」と、全7章で構成されています。


【国王そっくりな男】


1900年7月28日のこと、イタリア国王のウンベルト一世が、


おつきの将軍と北イタリアのモンツア市のレストランで食事をしていた。


国王は、明くる日から始まる競技会に出席するため、モンツア市に来ていたのだ。


国王は、白いひげを生やした老人が色々指図しているのを見て、将軍に云った。


「将軍、あのひげの男にどこかで会ったような気がするんだが、


ちょっと思い出せない。すまんが、ここへ呼んでくれないか」


やがて、レストランの主人が国王の前に来て、うやうやしく頭を下げた。


「陛下は、鏡でわたしの顔をごらんになったにちがいありません。


わたしはおおぜいの人から、陛下によく似ていると云われます」


「そう云えば、わしとそっくりじゃ。ところで、名前はなんと申すのかな」


「陛下と同じく、ウンベルトと申します。


1844年3月14日、午前10時30分、この世に生まれた時からの名前です」


「なに、1844年3月14日、午前10時30分だと?


それは、わしの生まれた日と、時間までそっくりじゃ。で、生まれた所は?」


トリノでございます」


トリノ? わしも、あの町の生まれじゃ」


国王は、すっかり、驚いてしまった。


「ウンベルト君。きみはもちろん結婚しているだろうね」


「はい、1866年4月2日に、結婚いたしました。妻はマルガリタと申します」


「わしの結婚した日と同じじゃ。マルガリタというのも、皇后のクリスチャネームと同じだ」


国王は、いよいよ不思議そうにつぶやいた。


「ときに、ウンベルト君、子供さんは?」


「ビットリオという息子が、ひとりおります」


「皇太子と、同じ名前じゃ」


国王は興奮して声をふるわせた。


「ところで、きみはこの商売を、いつから始めたのじゃ?」


「はい、1878年1月9日からです」


「それは、わしがイタリア国王になった日だ。


こう、何もかにも同じとは、まったく信じられない。


明日は競技会に出席することにしているが、きみも、ぜひ来たまえ。


なにか、記念品をあげよう」


あくる日、競技会に出席した国王は、レストランの主人をさがしたが、見つからなかった。


将軍がそのわけを、次のように説明した。


「陛下、あの男は、先程、とつ然亡くなりました。


銃の手入れをしていた時、あやまって事故を起こして、死んだのです」


「それはかわいそうなことをした。葬式には、わしも参列しよう」


国王のその言葉が、終わるか終わらぬ内に、


ひとりの暴漢が撃ったピストルで、


国王ウンベルト一世は、即死した。


(【人間の七不思議】より)


ちなみに、イタリアには死刑制度が無いため、


ウンベルト一世を暗殺した暴漢・無政府主義者は、終身刑を云い渡されました。