スコット・グレンは非現実の王国で闘う少女の夢を視るか

（ネタバレありますよ）

身寄りも無く天涯孤独な老人は、病院の清掃をして僅かな生活費を稼ぎ、

殆ど誰とも接する事無く、日々をおくっていた。

老人は、昼間は黙々と作業をこなし、誰かが挨拶をするとその日の天気の事を話題にするだけだった。

休憩時には階段の片隅に腰を下ろし静かな表情で何やら物思いにふける老人を見て人びとは、

彼は何の趣味も持たず、就業後に酒場へ繰り出す事も無い、ごくごく平凡なおとなしい独り身の男と認識していた。

今日も老人は定刻通りにその日の病院での仕事を終えると、真っ直ぐ帰途に着いた。

古くて狭いアパートの一室が老人のここ数十年の住まいだった。

帰宅してから、少しばかりの夕食を終えた老人は、

いつもの日課に取りかかった。

これは、老人がこのほぼ半世紀の間、こつこつと続けてきた日課だった。

眼を閉じると、老人の頭には、ひとりのブロンドの少女が鮮やかに現れた。

少女は苛酷な運命に巻き込まれていた。

金と名声だけが人生の目的である継父の策謀により、愛しい母親は若くしてこの世を去った、自分と、まだ幼い妹を残して。

更に継父は、母親が少女たちの今後の人生の為にと思って記した「全ての財産はふたりの娘に譲る」という遺書を見つけると

怒り狂い、少女たちを力で自分の思い通りにしようとした。

しかし運命の神様は無慈悲で残酷なものだ。

継父に抵抗し、たまたま傍らにあった銃を手に取った少女は、誤って、事もあろうに自分の妹を撃ってしまったのである。

死んでしまった母親に代わって、絶対に守らなければならない、可愛く儚い妹を。

その後の少女は「母親の死で錯乱し、妹を撃ち殺した兇暴な精神異常者」として精神病院へ強制入院させられ、

五日後にはロボトミー手術を受け、従順で、もはや何に対しても抗う事の無い、死んでるみたいに生きてる人間にさせられるのである。

初め少女は、こうなったのも運命と諦め、それをただ受け入れようとしただけだった。

精神病院には、少女と同年代の少女たちが何人も居り、彼女たちもまた様々な事情により、ここへ連れて来られていた。

彼女たちと触れ合う内に、少女は、自らの運命を変える決心をする。

出来れば全員を、少なくともひとりは、この病院から脱出させ、元の世界へと戻してあげよう。

こんな“病院”で、生きているのだか死んでいるのだか判らない様な日々をおくって人生を終えるのは絶対に嫌だ。

神様が助けてくれないのなら、自分で運命を切り開いてみせると決意を固めたのである。

そして、少女は仲間の少女たちと総勢五人で闘いを始める。

失敗すれば死。成功すれば地獄の様な世界から抜け出る事が出来るのだ。

敵は巨大なサムライ、ナチが生み出したゾンビ兵士、B-29爆撃機、戦闘気球ヒンデンブルグ号、人型ロボット……。

少女たちはまるで舞踏するかの様に宙を舞い、刀を繰り、重機関銃、拳銃で強大な敵を倒していく。

（少女が単に踊るだけの場面は、それがどれ程美事な踊りであっても夢想されなかった。老人には興味が無いからだ）

そして少女たちに助言を与え、時には指令を与え、窮地を救うのは、他ならぬ“自分自身”なのである。

少女たちの運命の結末は。

果たして老人は、少女たちを救い出す事が出来るのか。

………という夢想をしながら観ていた事もあり、この映画【サッカーパンチ】（エンジェルウォーズ）、本当に楽しめました。

ヘンリー・ダーガーには生き別れた妹が居たらしいけど、その事もこの映画に影響を与えてるのかしらん。

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