ポランスキーの毛皮のヴィーナス
※下記は映画観てからお読みください
誰がどう見てもポランスキー本人にしか見えない主演俳優、
そして相手役はポランスキーの妻のエマニュエル・セニエで、過去作『フランティック』『ビタームーン』『ナインス・ゲート』にも出演してきた女優。
(エマニュエル・セニエは『フランティック』『ビタームーン』で主人公の妻の“鏡”、
『ナインス・ゲート』では人間を超えた“魔女(天使?)”を演じており、
本作では『ナインス・ゲート』の流れとも云うべき、超常の存在を怪演している)
1994年の『死と処女』、前作『おとなのけんか』に引き続き、舞台劇を映画化した本作は、原作の戯曲も原典となった小説も越えて、
男と女の関係をも越えて、神と人とのレベルにまで昇華される。
嵐の中、ひと一人居ない道を進んで行くカメラ。やがて一件の廃屋とも見える劇場へと辿り着く(看板“THEATER”の文字が欠けている)。
その劇場ではミュージカル版「駅馬車」が公演されており、その合間に舞台劇『毛皮のヴィーナス』の主演女優オーディションが行われていた。
「駅馬車」のセットが残る中、盛大に遅刻してきた女優と脚本家ふたりだけのオーディションが始まる。
始めは乗り気では無かった脚本家も、演技に入ると役になりきる女優に魅せられ、次第にオーディションという名の即興劇にのめり込んでいく。
そして役割交換(これも実に舞台的)を経て、脚本家は唇に紅を塗られ、ハイヒールを履かされ、女の役を演じさせられ、
巨大な男根にしか見えないサボテンの書き割りに縛り付けられ、そして……。
“密室劇”を執拗に描いてきたポランスキー。
“密室”の原点はポランスキーが幼少期に体験したドイツ軍に侵攻されたポーランドという隔離された空間だった事は『ザ・ピアニスト』で判明したが、
その後の『ゴーストライター』も島、『おとなのけんか』もマンションの一室を舞台にし、本作も劇場内で全てが展開するという、
継続して“密室”にこだわり続けている。
女装させられ、自由を奪われる脚本家は、ローラン・トポールの『幻の下宿人』を映画化した『テナント』で
ポランスキー自ら演じたトレルコフスキーの運命を想起させる。
脚本家は恐らく、病室のベッドで女という他者になったまま寝たきりとなり動けなくなったトレルコフスキーと同じく、
閉ざされた幕の開かない舞台で、磔にされたまま、永久に閉じ込められ続けるのだろう。
苦痛に悦びを見出す男と、男を調教する女の喜劇という形を取りながら、
このラストは実に恐ろしい、怖い、こわぁいものになってる。
本作を観た後は、ポランスキーの『テナント』を是非ご覧になる事をお薦めします。
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