無理強い心中 未完遂

hanoyshang2006-01-24



或る35歳の肺病患者が、人生の「性街道」を力一杯歩いて、どうせ行くべき天国へ行こうと考えてから、


数名の女性を手なずけ、快楽と薄情で暮らしていた。


そのうち、ひとりの女性(彼女も肺病であった)が、この男に熱をあげた。しかし男は相も変わらぬ快楽と薄情の一本槍、


女がいくら結婚問題などを話し掛けても、男は馬耳東風。女の一念は遂に決意をした。


例の様に約束の旅館に泊まり込んだ二人。男は淫乱と薄情で来ている。女は憎しみと殺意で来ている。


こんなにかけ離れた二人ではあったが、男は女の心の奥を知らぬ儘、女の戯れの恋に陶酔し、ほど良き睡気を催していた。


女は、予め用意していたサイダーをコップに注ぎ、これを口に含んで、男へ口移しした。男は女の愛情を、その儘、頂戴した。


ゴックンと飲んだ其の瞬間、「ヤッタナッ」と叫ぶや、肌着を身に付け、急いで便所へ駆け込んだが、もう駄目だった。


女はサイダー60ccに青酸カリ0.7グラムを入れたといい、其の三分の二を男に飲ませたと云う。


そして、其の残りの三分の一を飲んだと云っているが、女だけは命を取り留めた。


(「赤い屍斑」)