巨大猿
其れは松明の光を真向から浴びて、躊躇い、立ち止まり、
それから防壁上の無数の手が指すのを読み取ったかの様に向き直ると、
壇と其の上のアンを見下ろした。
彼女は野獣神の巨大な片腕の、曲げた窪みに横たわっていた。
彼が一歩進み、柔軟な躯を動かす度に、其の曲がった支柱がたわみ、
座り心地の良い揺り椅子の中に居るかの様に彼女も揺れていた。
髪からは一本残らずヘアピンが落ちてしまっており、其の泡立つ様な髪は滝となって彼女の背を流れ落ち、
彼のもつれた毛を背景に一層輝きを増していた。
ドレスの片袖が毟り取られ、彼女の右肩は剥き出しになっていた。
白く柔らかな其の丸みが、誘拐者のむさ苦しい巨体と、
驚くばかりの対照を成していた。
「奴を倒したのは飛行機乗りじゃ無いさ。
美女だよ。野獣はつねに美女によって殺されるのさ」