吸血鬼いろいろ



古来、吸血鬼というモンスターに、さまざまな姿・形が与えられてきましたが、


美女、もしくは可愛子ちゃんに血を吸われたいという願望は、


世の東西を問わない様です……。








佐藤有文著『吸血鬼百科』より

【呪われたドラクール村の怪事件】


チェコスロバキアのタトラ山脈にある小さな山村プレコールが、


世にも怪奇な吸血鬼の住むドラクール村と呼ばれるようになったのは、


1912年のことである。


この年、ハンガリー民俗学者ハルトマン博士の調査団が、


昔からカルパチア山脈地方に伝わる吸血鬼についての研究結果を発表した、


ハルトマン博士の記録によると、このドラクール村は、


奇しくもドラキュラ伯爵が住んでいたカルパチア山脈に近いタトラ山脈の谷間に、


ひっそりとたたずむ百人ほどの小さな山村であった。


博士の一行が吸血鬼伝説を求めてタトラへとやって来たとき、


ひとりのふらふらになった農夫と出遇った。


すると、この農夫は苦しそうな声で奇妙なことをいったのだ。


プレコール村は全滅だ。あの村は、吸血鬼どもに、すっかり占領されている…」


そしてハルトマン博士たちは、プレコール村へ向かう途中の村で、またしても奇怪な話をきいた。


その村人がいうには、


「あのプレコール村へ行った人は、二度と帰ってはこない、


みんな吸血鬼にやられたのだ。このまえも、あの村から少年がやってきて悲しそうに泣いているので、


この村の老人が送っていったら、そのまま帰ってこない…。


どうか、あの村から吸血鬼どもを追い払ってください」


そこで、ハルトマン博士は、吸血鬼を予防する多くの十字架やニンニク、聖水を用意して


プレコール村へとのりこんだ。


だが、村のどの家にも、だれひとりとして人影がなく、ぶきみに静まりかえっていた。


村のいちばん大きな館ゾミエール家の門の前にきたとき、


ハルトマン博士は思わずはっとしてその紋章を見つめた。


ドラゴンのマーク……それは、まさしく吸血鬼ドラキュラ家のものと同じ紋章であった。


「この村は、たぶんドラキュラ家の子孫によって、村人すべてが吸血鬼となっているにちがいあるまい…」


ハルトマン博士たちは、村の奥にある墓場へと急いだ。


まず、最初の墓の上でハルトマン博士が十字架をかざし、聖書を読んでから墓地の土の上に聖水をふりかけた。


すると、ふいに墓の土がゆっくりと動きだして、ものすごい女のうめき声がした。


と同時に、墓の土の中から、女の青白い腕が二本、ぬっと出てきたのだ。



「やはり、女の吸血鬼だ!」


ハルトマン博士は、すぐに大きな木の杭を女吸血鬼の胸に突き刺し、それから首を切りおとし、油で焼き殺した。


さらに十字架を焼死体の上におくと、ハルトマン博士は悪魔よけの呪文をとなえるのであった……。


(つづく)