狐と狸の化かし合い(鳳啓介)



江戸時代、暑気払いとして行われた“百物語”は、百本の蝋燭に火を灯し、


ひとつ怖い話を語り終える度に火を吹き消していき、


百本目の蝋燭の灯りが消えた時に、本物のお化けが現れるというものですが、


殆どの場合、九十九本目で“お開き”となり、その寸止めを「江戸っ子らしい粋」として楽しんでいた様です。

鈴木万由香さんにお聞きしました)


また、題材にされる怪談話は、殆どが、狐や狸に化かされたといったものであり、


幽霊話などとは些か異なっていたのでした。


では、狐に化かされたお話を……。


大川に舟を出して釣りを楽しんでいた男が、思い掛けない大漁に、


「今日はこれまで」と早々に舟を操って川をのぼり始めました。


大川には多くの橋がかかっています。とある橋の下まで舟を漕いできたところ、


ふと橋の上を見上げると、ひとりの下僕風の男が、舟に向かって小便を垂れようとしています。


これを見た男は怒りました。


「無礼な奴だ、こらしめてやろう」


急いで舟を岸につけ、橋の上へ駆け昇って行くと、男の姿は何処にもありません。


呆れて再び舟に戻り、次の橋の下まで行くと、さっきの男がまた橋の上にいて、


小便を垂れようとしているではありませんか。


「奴め、人を馬鹿にしおって」


再び舟を岸につけて橋に上がると、またもやその男の姿は消えています。


腹が立つやら不思議やらで舟に戻ったところ、


釣った魚は一匹残らず消えていました。


魚を盗むための狐の仕業だったのです。


(【こわい怪談画報告/泥棒ぎつね】)



……これでは暑気払いにはならないか。





キツネとタヌキ/振り向かないわ

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