黄金のトランク


其の男は、ひとつのトランクを預けて行ったと云う。


だが其れが今、何処に在るのか、わからないのだ。


トランクは“こがねいろ”にぬらぬらと光っているものであり、


近くにあれば見落とす筈は無いという代物なのだが、見当たらないのだ。


其のトランクを視た記憶は確かにあり、こうして話している間にも


鈍いながらも周囲を威圧するかの様な輝きが蘇ってくる。


しかしこの時、なぜ手塚治虫の【黄金のトランク】を連想しなかったのだろう。


あの漫画は、どういった話だったろうか?


いや、連想出来る訳は無かった。


手塚治虫の【黄金のトランク】は、未読なのだ。


黄金のトランク (手塚治虫漫画全集)

黄金のトランク (手塚治虫漫画全集)