科学画報昭和五年四月号
新橋駅前古書市で購入した、戦前(大東亞戦争前)の雑誌【科学画報】。
四月号の特集は、「植物界の驚異」「探偵と犯罪の科学座談会」。
表紙は、「ジャバの原始林に咲く世界一の巨花」ラフレシアの絵。
●冬蟲夏草の話 東京帝国大学理学部植物学教室理学士薬師寺英次郎
冬蟲夏草は又夏草冬蟲とも云って或は草と化し或は虫と化すものとして
不思議な現象の一つに数へられ昔から支那でも日本でも一般の注目を引いたもので
天保四年の小原良直の桃洞遺筆を見ると仲々面白い図を引用して色々記述してある。
(中略)
世界中で冬蟲夏草を食ふのは此の支那人とタスマニヤの土人とだけで
タスマニヤの土人も亦これを薬用にするのかどうかはよく判らぬ。
日本では他の種類を稀には薬草にするらしい。
●探偵犯罪の科学座談会
出席者:警視庁技師・金澤重威/医学博士・高田義一郎
大下宇陀児/甲賀三郎/阿部徳蔵
甲賀「どうも科学で解く犯罪の方が多いやうですね。科学を利用したと云ふのは…」
大下「精々新しい毒薬を用ふる位のところではないでせうか。
独逸のストラフアンゼンとか云ふ毒薬を使って殺したと云ふのが
あるさうぢゃありませぬか、此間川端君から聴いたんですが、
少量ですと性的興奮を起すが、多量だと死んでしまふ薬ださうです。違ひますか」
高田「さうですかね。それより私は小酒井くんので、
殺してすつかり溶かしてしまふと云ふのがありますね、癩病の……」
大下「あれはなかなか面白いですね」
甲賀「けえどもさうよく溶けますかね。曹達やなんかを使へば溶けるさうですね」
大下「苛性曹達はよく溶けるさうです」
甲賀「それは溶けますが、煮たりなにかしなければ……
苛性曹達は溶けるさうです」
高田「溶かす条件を備へる為に科学者にしたんです……
あなたの何に火の中に落ちるやつがありますね」
甲賀「それはあります。溶鉱炉なんかに落ちたらそれは仕方ありませぬ」
記者「全く捜査の目的を達しなかったと云ふやうな事件は沢山あるものでせうか」
甲賀「それはあるでせうね」
金澤「それはありますね」
甲賀「最近には大分分からないのがある。千駄ヶ谷の事件や清作事件等」
金澤「清作事件は八分通り行っているのですから、犯人が見つからないと云ふことは、
捜査上から云ふと極く小さなものです」
(原文ママ)
……竜崎「何が何だか、わからない……」