映画「女優霊」の元ネタ?





《映画に現れた幽霊》



1936年のこと。


日本の映画会社でベストセラーの映画化が進み、


その試写会が撮影所の試写室で、開かれることになった。


ところがこの作品は、主演女優を新人にしたのだが、


その女優が相手役の古い女優にいじめられて、


完成寸前に行方不明になってしまったのだ。


「だらしないわねえ。だから、あんな子を主役にするなって言ったじゃありませんか」


と、相手役の女優は監督に文句を言った。


みんなは心の中では、いなくなった女優に同情していたが、


大スターの権力が強いので何も言えなかった。


大急ぎで別の女優をさがし出して、映画はどうやら完成したのだ。


「おい、これを見ろ」


試写会に集まった人々のところにへ、撮影所の男が新聞を持って飛び込んできた。


“新人女優、瀬戸内海で船から投身自殺”


新聞の見出しにはそう書かれているではないか。

監督たちはショックを受けたが、スター女優は、ざまをみろといった顔をしただけだった。


やがて、試写が始まった。死んだ女優はすばらしい演技だった。

演技がうますぎるので、それをねたんだ古いスターがいじめたのも無理はない。


映画は結婚式の場面になった。


この場面のときは、すでに行方不明になっていたので、画面の花嫁は代役の女優だ。


うつむいているし、遠くから写しているので顔はわからない。


「キャーッ」試写室に悲鳴が起きた。


花嫁のうしろに死んだ女優の顔が大きく浮き出したのだった。


同時にフィルムが止まってしまった。


その頃のフィルムは火に弱いセルロイドフィルムだから、ひっかかったらすぐに燃え出す。


画面に黒い穴ができたと思うと、メラメラと燃えはじめた。


とうとう、試写室は全焼、せっかくの作品も灰になってしまった。


もう一度プリントを作り直し、よく調べてみたが、


結婚式の場面に女の顔などは写っていなかった。


スター女優はそれから間のなく、気が変になった。


(【怪奇 実話!62の怪奇スリラー】加納一朗著)