20世紀の青髭公
二人の警官が、信号を無視して疾走して行った車を追跡した。
二人は暫く追跡した後、漸く原野に車を乗り捨てた犯人を捕らえる事が出来た。
其処へ応援の警官も駆け付け、荒れ狂う男を何とか鎮めたが、パトカーに乗せようとした時、
男の服装が妙なのに気が付いた。
上着の肩の所から2列に鋭い釘が突き出し、襟にも似た様な釘の列が有って、手首には釘の生えた腕輪をしていたのだった。
警察署で更に調べてみると、ポケットからカツラ、ゴム製のマスク、パジャマの紐が出てきた。
警官たちは色めきたった。
此の10年間、島を恐怖のどん底に落とし込んだ暴行魔を、遂に捕まえたのである。
一連の事件は、1957年、3人の女性がナイフを持った男に襲われたのが始まりで、
翌1958年4月、ひとりの女性が首に綱をかけられ、畑に引きずり込まれて暴行された。
同年10月、もうひとりが小屋から引きずり出されて犯され、それから1年あまりは何事も無かったのだが、
1960年1月になって、更に恐るべき事件が発生したのである。
10歳になる少女が自分の部屋で眼を醒ましたところ、寝室に男が居て、騒ぐと両親を射殺すると脅した。
男はゴム製のマスクを被り、其の場で少女を犯して窓から逃げ、父親の車を盗んで逃亡した。
一箇月後、男は12歳の少年を襲い、それから11年間に渡って犯行は執拗に続き、
ジャージー島は恐怖の島と化した。
多くの場合、覆面の暴行魔は子供を庭へ連れ出し、暴行を加えた後で、また寝室へ連れ戻したのである。
それ故、マスクとパジャマの紐を持った男を捉え捕えた時、警察は男が暴行魔であると確信したのだ。
捕まったのは、名前をエドワード・ジョン・ルイ・ベイズネルという50代前半の男だった。
ベイズネルの乗った車は盗難車であり、ダッシュボードから、ヤツデの葉で作った十字架が出てきた。
明らかに車の所有車のものらしかった。担当の刑事が、其れをベイズネルの前に投げ出して、
「これはお前のものか?」と訊ねた。
「私のじゃ、ありませんよ」ベイズネルは高笑いしながら答えた。
「御主人様が其れを見れば、もっと高笑いするでしょうよ」
ベイズネルは悪魔を崇拝し、「青髭公」ジル・ド・レに心酔していたのである。
《ジル・ド・レ》 1404〜1440年
フランス西部ブルターニュ地方ナントの大貴族。
百年戦争中のオルレアンの戦いでジャンヌ・ダルクを軍の総司令官として支援しフランスの英雄となる。
配下を使って詐欺・誘拐などにより戦争孤児を居城マシュクール城などに集め、次々に殺害。
男児の首を切り取り、噴出する血液を見て興奮、自慰に耽った。
被害者の数は推定600-1500人程度(150人は確実といわれる)
裁判時に自ら死刑を求刑、1440年10月26日36歳で火刑。
シャルル・ペローの童話「青ひげ」のモデル。