20世紀の青髭公

hanoyshang2006-01-06

1971年7月10日の深夜、イギリス海峡ジャージー島で、


二人の警官が、信号を無視して疾走して行った車を追跡した。


二人は暫く追跡した後、漸く原野に車を乗り捨てた犯人を捕らえる事が出来た。


其処へ応援の警官も駆け付け、荒れ狂う男を何とか鎮めたが、パトカーに乗せようとした時、


男の服装が妙なのに気が付いた。


上着の肩の所から2列に鋭い釘が突き出し、襟にも似た様な釘の列が有って、手首には釘の生えた腕輪をしていたのだった。


警察署で更に調べてみると、ポケットからカツラ、ゴム製のマスク、パジャマの紐が出てきた。



警官たちは色めきたった。



此の10年間、島を恐怖のどん底に落とし込んだ暴行魔を、遂に捕まえたのである。



一連の事件は、1957年、3人の女性がナイフを持った男に襲われたのが始まりで、


翌1958年4月、ひとりの女性が首に綱をかけられ、畑に引きずり込まれて暴行された。


同年10月、もうひとりが小屋から引きずり出されて犯され、それから1年あまりは何事も無かったのだが、


1960年1月になって、更に恐るべき事件が発生したのである。


10歳になる少女が自分の部屋で眼を醒ましたところ、寝室に男が居て、騒ぐと両親を射殺すると脅した。


男はゴム製のマスクを被り、其の場で少女を犯して窓から逃げ、父親の車を盗んで逃亡した。


一箇月後、男は12歳の少年を襲い、それから11年間に渡って犯行は執拗に続き、


ジャージー島は恐怖の島と化した。


多くの場合、覆面の暴行魔は子供を庭へ連れ出し、暴行を加えた後で、また寝室へ連れ戻したのである。


それ故、マスクとパジャマの紐を持った男を捉え捕えた時、警察は男が暴行魔であると確信したのだ。


捕まったのは、名前をエドワード・ジョン・ルイ・ベイズネルという50代前半の男だった。


ベイズネルの乗った車は盗難車であり、ダッシュボードから、ヤツデの葉で作った十字架が出てきた。


明らかに車の所有車のものらしかった。担当の刑事が、其れをベイズネルの前に投げ出して、


「これはお前のものか?」と訊ねた。


「私のじゃ、ありませんよ」ベイズネルは高笑いしながら答えた。


「御主人様が其れを見れば、もっと高笑いするでしょうよ」


ベイズネルは悪魔を崇拝し、「青髭公」ジル・ド・レに心酔していたのである。



《ジル・ド・レ》 1404〜1440年


フランス西部ブルターニュ地方ナントの大貴族。


百年戦争中のオルレアンの戦いでジャンヌ・ダルクを軍の総司令官として支援しフランスの英雄となる。


配下を使って詐欺・誘拐などにより戦争孤児を居城マシュクール城などに集め、次々に殺害。


男児の首を切り取り、噴出する血液を見て興奮、自慰に耽った。


被害者の数は推定600-1500人程度(150人は確実といわれる)


裁判時に自ら死刑を求刑、1440年10月26日36歳で火刑。


シャルル・ペローの童話「青ひげ」のモデル。