発展途上国に於ける成人になるための儀式
ベースジャンプは文字どおり、神頼みのスポーツです。
時速150キロで落下していく中、地面に叩き付けられる前にパラシュートがちゃんと開くかどうかは、
正に神のみぞ知るといったところです。
「別に自殺したい訳じゃ無い。確かに断崖絶壁から飛び下りるなんて、
自殺行為かもしれないけど、安全対策には気を遣ってるつもりだよ」
プロのスカイダイバーでもあるバーデンホップ氏。
ベースジャンパーは僅か数千人のグループ。
殆どが友人や仲間をを事故で亡くした経験の持ち主であるため、彼らは他のどのグループよりも固い絆で結ばれています。
メンバーには、ソフトウエア会社の社長や歯科医師も居ます。
「これこそが僕の生き甲斐なんだよ。歯科医は、ジャンプをするための資金稼ぎでやってるだけ」
彼らは、1999年2月、コロラド川を見下ろす、断崖の上にやって来ました。
ベースジャンプは、映画「007」(エッフェル塔からグレースジョーンズがジャンプしました)や、
TVCMなどで、決死のスタントとして度々登場します。
一般的なスカイダイビングからみると、ベースジャンプの危険度は較べものになりません。
スカイダイビングは地上4000メートルの高さから、パラシュートが開くまでに時間的な余裕もあり、
予備のパラシュートも背負っています。
一方、ベースジャンプの場合は、100メートル前後の高度から落下、装備するパラシュートも一個のみです。
しかもそれは危険なだけで無く、多くの場所では法律違反でもあります。
ベース「BASE」は、空中、建物、橋、地球を意味しますが、その中には立入り禁止区域も含まれています。
違法な場所で飛ぶ時は、警察に先回りされない様にする事が肝心だそうです。
「警察の人たちは、あなた達を危険から救おうとして、やってくる訳ですよね?」
「別に助けてくれなんて頼んだ覚えは無いよ。僕らは自分達の判断でやってるんだから」
バーデンホップ氏のグループは、全員、違法な場所から飛び下りた「犯罪者」となりました。
それらの罪状は「不法侵入」です。
「何でこんな事をするんですか?」
「これはスポーツだよ。楽しくて、昂奮するんだ」
ヨセミテ国立公園の中に聳えるエルカピタン。ベースジャンパー達にとってのチョモランマは高さ1200メートル。
ここでもベースジャンプは違法です。25年前、公園側は3ヵ月の試験期間をもうけましたが、
ジャンパー達が繰り返しルールを破ったため、それ以降は全て禁止になりました。
「谷底に大勢の人が集まったり、ジャンパーが予定の場所に着地出来なかったりすると、
渓谷の静かな環境が破壊されるだけで無く、絶滅の危機に瀕した貴重な植物にダメージを与える事になります」と国立公園局の次長。
「国立公園というものは、みんなが自分勝手に楽しむためのものじゃありません。次の世代に残すべきものです」
「でも、国立公園は納税者のためのものですよね? 税金を払っているジャンパー達には飛ぶ権利があるとは思いませんか?」
「それは違いますね。ベースジャンプは憲法で保護されていませんよ」
国立公園内で、ハンググライディングやロッククライミングといったスポーツが許されている事から、
ベースジャンパー達はこれを差別だと非難し、そして、違法ジャンプを続けています。
過去20年の間にエルカピタンから飛び下りたジャンパーの数は6000人以上。
その内のひとり、フランク ガンボーリ氏は、着地後、公園の警備員達が近付いて来るのを見て逃げました。
しかし、川を泳いで渡る途中で溺死しました。
バーデンホップ氏たちはガンボーリ氏の死に抗議してエルカピタンからジャンプ。
その五番目に飛び下りたジャン デービス夫人。
夫のデービス氏「妻のベースジャンプ歴は15年。ベースジャンプとスカイダイビングの女王でした」
その日、ジャン夫人は、囚人服を着込み、当局側に機材を没収される事を知って居た彼女は、
いつも使っている高価な装備を敢えて使用しなかったのです。
彼女が飛び下りた時、先にジャンプしていた3人は既に逮捕されていました。
デービス氏「あの時は、不思議と冷静でした。いつもは心配が先に立つんですが」
ジャン夫人のパラシュートは、開きませんでした。
デービス氏が見守る中、ジャン夫人はそのまま地面へとダイブしていったのです。
五番目に飛ぶのはバーデンホップ氏の予定でしたが、
「飛びませんでした」
ヨセミテ国立公園で事故死したベースジャンパーはジャン夫人で6人目です。
「妻もガンボーリも、自分たちの意志と、国立公園局の方針との狭間で、命を落としたんですよ。
このまま放っておく訳にはいきません」
「ジャンパーたちが死んだのは、全て国立公園局のせいだと?」
「彼らはベースジャンパーを迫害しているんです」
デービス夫人が死んで、彼らはジャンプをためらうどころか、ますます公園局との対立を深めようとしています。
執行猶予がとければ、またヨセミテの断崖からジャンプするそうです。
「僕らの信念はますます強くなったよ。好きなことだからね」
「そこにヨセミテがある限り、僕らは僕らの大義名分に従って、行動し続けますよ」
1999年、ニューヨークのエンパイアステートビル、クライスラービル、
そして世界貿易センタービルからジャンプした男が逮捕され、罰金1万ドルを払い、七日間の社会奉仕をした三ヵ月後。
今度はノルウェーの断崖から飛び下りました。
この時、パラシュートが開かずに、彼は死にました。
("60 minitues")
クレイマー署長「何がダイブだ! バカども! やめろやめろ!!」
(Lars von Trier "ELEMENT OF CRIME" )