こわいはなし
東京・霞ヶ関の法務省の隣のビルには、どういう訳か、箒を手にした幽霊が現れる。
雨がしとしと降る夜、コンクリートの天井から竹箒で掃く音が聴こえる。
手を触れないのに、重いドアがギーッと開き、暫くすると、バタン! と閉まる。
そのうえ、「ケッ! ケッ!」という女の笑い声が響き、
更に天井から青い火の玉が落ちて、夜警の人を襲うのだ。
(「箒を持った幽霊」)
満月の夜、崖っぷちの宙に浮いていた其の幽霊は、麦わら帽子を被り、
野良着姿、真っ黒い肌で白い歯を剥き出し、
直立不動の姿勢で、脚の方はボーッと透けて見えた。
故伊藤晴雨画伯が東京の日暮里で見た幽霊だが、
誰の霊なのか判らないと云う。
(「生きた人間の様な幽霊」)